ボクは以前、東京に住んでいて、バンドでキーボードを弾いていました。
20代のころ、本気でコレで食っていきたいと思っていた頃もあったのですが、今から考えると、とてつもない無謀だったなあ・・・と思うほど、ボクには才能がなかったのに、当時は、磨けば才能は芽生えると信じてやっていました。青かったなぁ・・・
そのころの話。
その時、バンドのリーダーだった人。バンドのメンバーからも、ほかのバンドからも、一目も二目も置かれていて、誰もが「彼と一度でいいからセッションしたい」と言うほどのGuitarだったのですが、そのリーダーが、テクニックもセンスも才能のかけらもないボクを同じバンドで10年も付き合ってくれました。
東京から沼津へ帰ることを決めなければならない、という頃になって、ようやく「アマチュアとしてはまあまあ、聴けなくはないか?」程度までなんとかキーボード奏者としてサマになってきて、やっと他のメンバーとの間に感じていたコンプレックスも薄らいで、演奏するのが楽しくなってきたころ、リーダーの彼と飲みながら話をしたことがありました。
「どうして、オレみたいな全然才能のかけらもないようなヤツを、クビにせずに10年も付き合ってくれたんスか?」
リーダーいわく
「KC、おれはずっと待ってたんだよ。」(その当時KissyはKCと呼ばれてました^^)
10年前、KCがウチのバンドへはいってきたときは、「ホントに何も持ってないキーボードだな」と思ったんだけど、だからってすぐクビとか別のキーボーディストを、って気にもならなかったから、とにかく俺たちが「こんなピアノを弾いてほしい」「こんなプレイはどうだ?」って思うようなミュージシャンのCDやビデオをとにかく聴かせて、見せたんだ。
ここまでスゴいプレイをしろとは言わないけど、こういうプレイのすごさを、こういうピアノのカッコよさを、少しでも出せるようになってほしい、ってね。
だけど、そうやって色々勧めたり、良い曲を教えてあげたりしたのは、初めの3年くらいだけだったよ。
あとは「待ち」だ。
KCだけじゃない。サックスのHも、ドラムのFも、とにかくそれぞれみんなに、こんなプレイを目指したい。こんな音楽を創っていきたいって投げたら、後は「待ち」だよ。
待って待って、とにかく辛抱して待って・・・その我慢比べみたいなモンだ。
けど、待ったおかげで、7年目でやっと大変身しただろ?
バンドでやりたい音楽を創っていこうと思ったら、ちゃんとメンバーに伝えて、後はひたすら待つんだよ。
待った甲斐が、あっただろ?待ってもらった甲斐が、あっただろ?
どこへ行っても引く手あまた。
プロのギタリストよりも彼と演りたい、と言われるほどのリーダーが、どうしても自分の思い描いたモノを創りあげたかった時に、その思いを実現するのに、そんな風に想っていたのを、メンバーと袂を分つ直前になって知りました。
今は、彼らとは旧友としてたま~に会うくらいですが、その時にもらったモノは、色々な意味でKissyの・・・いやKCの・・・一番大切なものです。
そして、中でも大切なのが、リーダーに話してもらったこの話。
どうしても築き上げたい。
そんな時は、伝えることを投げかけて、伝えた後はひたすら待つ。
大切なモノは、待っているときに熟成されて、ある時一気に結実するから、その時を信じてひたすら待つ。
きっとこれから一生、心の一番下にずっしり留めておくだろう、ボクにとってとても大切なコトです。